大切なことは絶えず「自分がどうしたいのか」を考えること。

「やりたいか、やりたくないか」
「楽しいか、楽しくないか」
決断はいつもシンプルです。

 住み慣れた大阪から神奈川県小田原市に引っ越し。勤務先の大阪市立大学大学院へは、新幹線で通勤です。仕事のオファーが多い東京都内ならまだしも、とくに知人がいるわけでもない小田原住まい、正直びっくりしました。
 「ここは都会でもないけれど、田舎すぎもしない。いろいろ考
えてはみましたが、決断は早いです。私、最後は楽しいほうを選ぶんです」
 永田さんの著書『女子の働き方』でも、仕事の状況で直面する〝選択〟は、「自分はどう思うか」「楽しいか、楽しくないか」を基準に考えたアドバイスです。
 「どうして私が今回のような本が書けたかというと、ずっと
マイノリティだったからでしょうね」
 高校卒業後に選んだ進路は海上保安大学校。将来の海上保安庁(海保)の幹部職員を養成する大学(広島県呉市)で、新聞でもニュースになった初の女子学生として入学します。1953年、女性に門戸を開放した〝初〟の一期生とはいえ、女子入学生は、なんと永田さん一人だけ。
 「受験を勧めた父親が合格発表を見に行って、ひでみさんもまさみさんもいたから、女性はお前一人ではないと言ったけれど、入学直前にそれはすべて男性名だとわかりました」
 その後も無事、海上保安庁の幹部職員になったものの、26歳の若さで巡視艇「まつなみ」の船長に大抜擢。ここでも〝女性初〟が加算され、最年少(男子もふくめて)で船長になるという、トリプルの〝初〟づくし。
 「だから、絶えず聞かれるわけですよ。女にこれは務まると思うのか? 結婚したらどうするのか? 子どもが生まれたら辞めるのか?と」
 聞かれるたびに考える永田さん。思考の窓は、いつも全開です。
 「考えるたびにたくさんの時間が積み上がっていって、人はorigin(源)が詰まってくるのですよね。オリジナルってよく言いますけれど、personの根っこの部分ですね。そこまで深く潜っていって、パーソナルの部分に浮上してきて、はじめてその
人のオリジナル=個性が生まれるのではないかと思います」
 自分に〝問い〟を投げ続けないと、その上に咲く〝個性〟の花も開かない。これは海外に住む日本人が体験することと一緒だと永田さんは付け加えます。
 「日本ならどうなのか?」「日本人ならどう考えるのか?」
 私は日本の代表じゃないからと、うそぶいても海外では通じない。
 「いまの時代、若い人はスマホでもすぐに調べられて考えなくても情報は手に入りますよね。でも、人工知能のAIが出てきたら、それはAIがやる領域。そうなると今よりいっそう、originの〝源〟の部分が問われてくると思います」
 永田さんの話を聞いていて浮かぶのは「ゆの里」で働くという意味。ぼんやり思っていたら、永田さんは見透かしたように
 「企業もうちの製品は何のために世に出すのか、サービスの源泉はどこからくるのかと考えざるを得なくなりますよね。 私は大学で教鞭をとりながら、女性の働き方や組織のリーダーシップ、コミュニケーションなどについて企業研修や講演活動をしていますが、いま、歴史書や哲学書を読み始めている経営者を多く目にします。originの領域が求められるからだと思います」
 「ゆの里」が開業30周年を迎えたことは誌面でも何度も書いてきましたが、「ゆの里」が意識改革の場に値するためには、まず「ゆの里」で働く私たちスタッフがお水に対して共通認識を持ち、自分の頭で思考する癖をつけないとはじまらないなと気づいてきました。
 「そのためには、ちょっと視点や発想を変えること。私は輝かしいキャリアとは裏腹に、何度も壁にぶつかったからこそ得られた体験がたくさん。そのコツをわかりやすく解説したのがこの本です」
 体験は決断とも置き換えられます。毎日、毎日、小さな決断の連続です。
 「自分で決めるというのは大変なようですが、小田原に住むこともそういうことで、最初は小さな決断の積み重ねなのです。私はこういった決断を人生の中でいっぱいしてきました。すぐに大きな決断ができるものではないのですね。何時に起きるのか、何を食べるのかなど、日常の積み重ねで1日は成り立っている。こんな小さなことも人に委ねないで、自分で決める。その積み重ねが人をつくっていくのだと思います」

人は鏡。人を好きになるには、まず、自分を好きにならないとね。

 「海上保安庁時代では、あの人がやってくれるだろうとか、きっと言わなくても感じてくれるよね、なんてことは期待しませんでした。みんな仕事のプロだし、忙しいし。余裕はないことを知っているからです。だから、おのずと自分で自分のことを認めて、自分で自分のことを褒めていくようになりました。
 昔、易学を勉強したことも影響しているかもしれません。易の考え方の中に〝命の幅を活かす〟というものがあります。〝命〟とは、それぞれの人が持っている個性や資質のこと。クレヨンの色にたとえれば、青や紫、緑などの寒色や、ピンクやオレンジなど明るい暖色……とさまざまな色があるように、人はそれぞれの色をもって生まれてきています。これが命(個性や資質)です。
 〝命の幅を活かす〟とは、自分のクレヨンの色を知り、他との調和の中で活かしきること。それには、相手や環境が変わるの
を待つのではなく、自分が変わったほうが手っ取り早い。この人はどんなふうに考えるのだろうと、その人を客観的に見る癖もつきましたね」
 永田さんの客観視は、夫婦関係でも威力を発揮します。
 「面白いのは、怒っているときに、ああ、私はいま、ものすごく怒っているわと感情を味わえるようになりました。夫婦喧嘩のときも、ダンナさんにごめんと言わせたいだけなのだとわかっていながら、この怒った感情をもう少し続けようかなと思ったり(笑)」
 自分の中に、もう一人の自分をつくって冷静に俯瞰する。
 「今回の本の出版は、ある台湾の老師から、あなたはもっと活躍しなさいと言われたからです。活躍することは時間をとられて忙しくなることと思いがちなのですが、その老師は〝忙しいのと活躍するのは別〟と言う。もう充分いまのままで満足しているし、いまさら本なんかと思っていましたが、なんだか自分に本を書くという体験をさせてあげたいと思ったのです」
 それに、基本、人が大好き。人が好きだからその人を見ようとする。
 「でもね、人を好きになるには、まず、自分を好きにならないとなれないのですよ。人は鏡。自分が自分のことを好きで自分のことを面白いと思っていれば、ほかの人を見たときにその人を面白いと思えるし、自分に余裕があるから、人にも余裕がもてるのです」
 絶えず自分を客観視できるのは、何より自分を信じている永田さんだからこそ。いちばん大事なコミュニケーション相手は「自分自身」だと記しています。
 そういえば、永田さんの著書には「自分のご機嫌は自分でとる」と書かれていましたね。
 「迷ったら面白いほうを選ぶし、小さいときから根拠なく自分は運がいいと思い続けていましたけどね」と永田さんは笑います。

「ゆの里」のお水がより繊細に変化。自分の意思があってこそ、お水を活かせる。

永田さんのご主人(海保時代の同僚)が読後「この内容は男性にも言えることだから、タイトルに“女子の~”と入れたのはもったいなかったね」と感想を。そうなのです。これは、人としての在り方論ですね。『女子の働き方』 文響社・刊1,350円(本体価格)

 「ゆの里」を知って10年以上。「月のしずく」のお水はもとより、「ゆの里」では、リンパマッサージは必ず予約するほどお気に入り。「最近は宿の予約がなかなか取れなくて、日帰りでしか利用できないのが残念です」
 大阪時代は毎月のように「ゆの里」にやってきては、重岡社長からお水の最新情報を聞くのが楽しかったとも。
 「2015年くらいから、お水のエネルギーが変わったような気がします。前は変化がわかりやすかったけれど、いまは、より繊細になったというか。お水の変化は社会の変化と呼応して、現代は働き方改革で仕事の向き合い方や多様な生き方が認められる世の中ですよね。どう働いてもどう生きてもいい時代。社会全般に自由度が増してきているだけに、自分がどうしたいのかの意思が起点になります。お水との関係も同じで、お水まかせではなく、自分の意思があって活かせる。本当の意味のスピリチュアルなものが求められているのだと思います」
 永田さんにとって「ゆの里」のお風呂は、ニュートラルな起点に戻してくれるイメージがあるそうです。「ゆの里」のお湯に入ることでパワーをもらったり、エネルギーを充填するのではなくて、もっとフラットな状態。
 「意識も身体も軸に還る感じですね。ゆの里のスタッフの方もたまには、意識的に宿に泊まって、お客様と同じ食事をして過ごしてみるのはどうですか? これを研修にしてもいいと思いますよ。一般の人に、意識改革と言っても自分が何をしたいかすぐわかるものでもないし。お風呂に入って身体を緩ませて、おいしいものを食べてぐっすり眠ることをやってみる。急ぎのメールはしかたないけれど、パソコンは開かずにね」
 最後は「ゆの里」での働き方までアドバイスしてもらいました。
 伺ったことを一つひとつ反芻しながら、思うことは意識改革の起点は、いつも自分の中にあるということ。
 2018年、私もみなさんと一緒。まずは「自分が動くことだ」と強く意識しました。

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